有名な心理カウンセラーの講演会で聞いたお話です。
小児ガン病棟は、いつも笑顔と元気と明るさに包まれて、みなさん、
とても活き活きとされているそうです。
もちろん、楽しいからではありません。小児ガンの子供たちを励ます意味で、
親も看護師さんもみんな、必要以上に明るく振る舞っているだけです。
そして、病室を離れ、子供たちには聞こえない場所までくると、みなさん
さめざめとむせび泣くそうです。
そして、ある小児ガンの子供のお話がありました。
その子供は、病室の中でも、特に優しく他の小児ガンの子供たちにいつも励ましの
言葉をかけたりしていたそうです。
その子供は、薬の関係か、容姿に甚大な変形が生じていて、病室では、一切
その容姿を自分では見ることがないよう配慮されていたそうです。
鏡を置かないことはもちろん、夕方、窓ガラスに顔を映る頃になる前に、
カーテンを閉めて映らなくなるなどの対策を徹底していたそうです。
あるとき、若い看護師さんが、ポケットに手鏡を入れていたときのことです。
その子供は、無邪気に、その鏡を見せてとお願いしたそうです。
看護師さんから受け取った手鏡で、自分の容姿を初めて知ったその子供は、
看護師さんにこう告げました。
「僕が、手鏡で、自分の顔を見たことをママには言わないでね。ママ、きっと
悲しむから」
普段から絶対の弱音を吐かない子供だったそうですが、あるとき、薬の影響なのか、
とても苦しそうな表情で、初めてこのような弱音を吐いたそうです。
「僕、大人になれるのかな」
驚いた親たちは、動揺しながらも当たり前じゃない、すぐ良くなるに決まってるじゃない、
と少し語気が荒くなりながら一生懸命諭したそうです。
そして、その翌日、あんなに優しかった、一切弱音を吐かなかったその子供は天国に
旅だったそうです。
人は、いろんな夢を持ちます。
旅行に行きたい
美味しいものを食べたい
素敵な恋愛をしたい
お金持ちになりたい
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欲望は尽きません。
でも、その子供の夢は、 「大人になりたい」 だったのです。
いま私たちは、その子供の夢の世界にいます。
大人として毎日を過ごせていけることに本当に感謝しているでしょうか。
もう一度言います。
その子供の夢の世界に、私たちはいます。
変わった考えかも知れませんが、大人のたしなみって、「一日一生」をどれだけ
実感し、実践することではと思うのです。